Yufu Blog

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ピアニスト、伴奏者、ピアノ講師をしています。 桐朋→ Manhattan School of Music(NY)卒業

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ピアニスト・ピアノ講師の Yufu のブログです♪

【読了本】シュ・シャオメイ『永遠のピアノ〜毛沢東の収容所からバッハの演奏家へ ある女性の壮絶な運命〜』を読んで、独裁政治について考える

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中国人ピアニスト、シュ・シャオメイ著『永遠のピアノ』を読みました。

知り合いがSNSに「近年読んだ中で最も印象的」な本として挙げていたので、興味深く手に取った。

読書家が勧める本は、気になっちゃいますね(゚∀゚)

英題は『The Secret Piano: From Mao's Labor Camps to Bach's Goldberg Variations』みたい。
Eternalでなく、Secretなの、なんとなくしっくりくる。



概要

前半生を革命で失った女性がピアニストになるまでの、衝撃的自伝。
1966年、著者が育つ中国に文化大革命の嵐が吹き荒れる……。

幼少期に得た、ピアノを弾くことの喜び。しかし歴史はその素朴な喜びを抱き続
けることを許さない。十代の希望にあふれる少女を、革命へと巻き込んでいくのだ。
演奏することは死をも意味した…。破壊と混乱の文化大革命が多くの時間を奪い去った。
プロ演奏家になれたのは40歳の時。遅すぎる、けれども希望ある出発となった。

芸術の意味を問う在仏中国人ピアニストの自伝。フランス語で著された最も優秀な音楽書籍に贈られる「グランプリ・デ・ミューズ」受賞の話題作。

中国人のフランス語で出版された本を日本語に訳すという、大胆な流れ。
というのも、そもそも著者のシャオメイさんは政治的な理由により、中国からアメリカに移り、そしてフランスに渡ったからだ。

私は自分が無知なことが恥ずかしいけれど、「文化大革命」について知らなかったし、ほんの数十年前にこんなことが同じアジアの国で起こっていたなんて、衝撃を受けた。
彼女の自伝としても、また、数少ない「文化大革命」についての資料としても、大変貴重な書籍。

著者のレパートリーである「ゴルトベルク変奏曲」になぞらえて30章で構成されている。



著者について

GOLDBERG-VARIATIONEN
J.S.Bach : Goldberg Variations / Zhu Xiao-Mei

シュ・シャオメイ(Zhu Xiao-Mei、朱曉玫)

ピアニスト。中国・上海生まれ。
幼少の頃より母からピアノの手ほどきを受け、八歳になるとラジオやテレビで演奏を披露するほどの腕前となった。北京中央音楽学院。在学中に文化大革命が起こり勉学を中断、五年間、内モンゴルの再教育収容所での生活を強いられた。その後、北京へ戻り北京中央音楽学院に再入学。一九八〇年にアメリカに渡り八四年にはパリに移住、後に定住を決意する。

以降、ピアニストとしてのキャリアを花開かせ、ヨーロッパ、アメリカ、アジア各国の大ホールで演奏し高い評価を得ている。各国の音楽フェスティバルにも招かれ、定期的に国がある国際コンクール(クララ・ハスキル、ロン=ティボー、バッハなど)の審査員を務めている。

彼女の壮絶な人生がこの本には刻まれてます。


感想

「40歳でピアニストとして活躍し始める」と聞いただけですごいけれど、
子供時代に再教育施設に入り、ピアノはおろか、西洋音楽・文化に触れることすら禁止されていた(疑いがあるだけで殺されてしまう)世界にいたなんて、想像もつかなかった。

そのような世界に生きていて、果たして自分なら、ここまでクラシック音楽を渇望できるだろうか。諦めてしまわないだろうか。

読みながら私の脳裏によぎったのは、第二次世界大戦でナチス占領下を生きたユダヤ人ピアニストを描いた映画戦場のピアニストや、フィクションだけれど、本や物語などの芸術を禁止された国家理想都市から追放された少年を描くあさのあつこさんのNO.6〔ナンバーシックス〕だった。

抑圧、暴力、洗脳、死への恐怖…。

10代の頃より、毎日行われる「自己批判の会」。
お互いに批判し合い、監視するような生活。

「集団」が何よりも、「家族」よりも大事と教えられ、
「出身不好(ブルジョワ)」とされる親を恥じ、つらくあたったり、西洋音楽を教える音楽学校の先生方を非難して、平気でひどい言葉を浴びせられるようになる。
何が正しいのか、正しさの判断を自分以外の人間--それも、一人の指導者の基準に仰ぐこと。そこから外れたら酷い拷問や処刑が待っていること。怖いと思った。


これは、過去の話だけれど、決して過去の話ではないと思う。
こんなことが他の国でも、繰り返さないといいと切に願う。


ニューヨーク時代を思い出した


私はニューヨークのマンハッタン音楽院(以下MSM)という音楽学校に留学したのだけれど、そこの学生は8割が中国人だった。
MSM以外のマンハッタン内の音楽学校は他にジュリアード音楽院とマネス・ニュースクールがあったが、どちらも同じような状況だった。
反対に、日本人はほぼいないに等しい。一人見つければ奇跡のような感じ。

ニューヨークはヨーロッパと違い、学費も物価も高い。
しかも、クラシック音楽といえば、アメリカではなくヨーロッパが本場である。それなのに、何故多くの中国人がアメリカに学びにくるのか、疑問に思っていた。

しかし、この作品を読んで、「やはりアメリカというのは“自由の国”だったのだ」という認識が強まった。
私はアメリカにいるときに、「アメリカはアメリカ人の国というよりも、いろんな国の人たちの集合場所のような感じがする」とよく言っていたのだけど、ロシアから亡命したラフマニノフ然り、まさにアメリカには自由を求めてくる人が多いのではないだろうか。

私のルームメイトは中国人で、彼女は時々自分の国について話してくれた。
食べもののこと、周りの学生たちとの関係*1、自国での職場の話、お母さんが生きていた時代…などなど。

特にお母さんの子供時代の話がとても印象的で、当時は食べるものも少なく、とても困っていたと聞き、戦時中のような話に驚いたのだが、本作を読んで、このこと(文化大革命)だったのかと思った。

他の中国人のともだちも「日本には音楽学校はいくつあるの? 中国には二つあるんだ」と話していたときも、「中国は大きな国なのに、音楽学校は二つなの?」と思ったが、こういう影響*2があったんだな。

同じ頃、日本では…


1960年代の日本 - Wikipedia
日本ではこの時代(1966年頃)は「高度成長期」で、「笑点」や「ウルトラシリーズ」など、現代に通じるものがたくさん生まれている時代。平和に向かって歩み始めてる。
同じ時代に、すぐ近くの国でこんなことになってたなんて。とてもショック。


ひとりの音楽家の半生としてだけではなく、歴史資料としてもオススメ

シャオメイさんの壮絶な人生、それだけではなく
「文化大革命」の資料もとても少ないようですので、経験者の語る経験談としても、とても興味深い内容でした。

音楽家だけでなく、幅広く皆さんに読んでほしい本です。

私は、シャオメイさんの演奏も拝聴したことがなかったので、聴いてみたいと思います。


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*1:シリアスな問題ではなくて、中国人同士の繋がりの深さや、他のアジア諸国の学生たちとちょっとした対立がある話。みんなそれぞれ人間関係の問題はあったんだろうけど、私は日本人一人という立場なので、どこのグループにも属さず、気楽に生活していた。笑

*2:文化大革命によって、音楽を教えない音楽学校が出来上がってしまった時代があった