Yufu Blog

ピアニスト、伴奏者、ピアノ講師をしています。 桐朋→ Manhattan School of Music(NY)卒業

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ピアニスト・ピアノ講師の Yufu のブログです♪

【レビュー】鳥飼茜『先生の白い嘘』&最近遭った変質者の話【近況】

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『先生の白い嘘』とは

「このマンガがすごい!オンナ編」2014に第9位を獲得した、注目作家鳥飼茜の青年誌最新作、登場!
原美鈴は24歳の高校教師。生徒を教師の高みから観察する平穏な毎日は、友人・美奈子の婚約者、早藤の登場により揺らぎ始める。二人の間に、いったい何があったのか?――男と女の間に横たわる性の不平等をえぐる問題作、登場!

ちなみに、本作は「このマンガを読め!2015」第8位*1です。

「このマンガがすごい!オンナ編」2014で第9位だったのは、本作じゃなくて『おんなのいえ』という作品なのですが、29歳で三年付き合って同棲までしていた彼氏に突然フラれる、というアラサー独身女性の心をグサグサと抉ってくる素晴らしい作品です。笑



「性の不平等」を描く

「性暴力」を描いているので、はっきり言って読むのに勇気がいるし、不快感や恐怖で読めない人も沢山いるであろうと思いますので、万人にオススメはしません。
ひとは他人を簡単に傷つけることが出来て、傷つけられた人も生活していかないといけなくて、そういうところに向き合わないといけない。

ただ、「性暴力」を描いているだけではなく、「性の不平等」を訴えているところが、私としては深く感銘を受けました。


主人公の原 美鈴は、24歳の高校教師。
親友の婚約者から性暴力をずっと受け続けていて、それを親友にも誰にも打ち明けていない。

そんな中、担任を受け持っている男子生徒・新妻が、バイト先の年上の女性に性被害を受ける。


生徒指導室での二人の会話。

美鈴「だって男だもん…
本気で逃げようと思ったら 力ではね返すことはできたでしょう?」
新妻「力じゃない暴力もあると思います…(中略)
だって先生 男も女も平等じゃないんですか?」


この会話で、男と女は平等じゃないと訴える美鈴に、個人的にはちょっと既視感…。
私自身も、数年前こういう話を友人同士でしていたときに、男性を責めたような言い方をしてしまい、男友達から悲しそうにされたことを思い出して、心がグサグサグサ。笑

いや、わかってんのよ。男の人がみんな悪い訳じゃないっていうのは、ちゃんとわかってんのよ。その時はつい感情的になっちゃっただけなのよ。
でも、男のひとは力が強いんだから…って思ってしまうところも、やっぱりあるのよね。


男女は、果たして平等か

男と女っていうのは、力の差も圧倒的にある。
子供が出来たときだって、女の人は24時間、お腹の子供と付き合うけれど、男の人は違う。
だから、そういう意味では男女はまったく平等ではないと、私は思う。それは、役割が違うという意味で。


この作品の中には、サバサバとした(この言い方も個人的には好きではないのだけれど)男っぽい女性も出てきて、そんな彼女も、男性からの性暴力の前にはただ立ち尽くすことしか出来なくて、声も上げられなくて、そんなときに、つい別の男に助けを求めようとしてしまった自分にまた自己嫌悪したりする。


性暴力の周りに様々な性が描いてあって、様々な生き方があって、何を選ぶか、何を感じるかはその人次第なんだけれど、それでも、みんな闘い続けている。



「空気の圧」という言葉

「男なんだから 本気で逃げようと思ったら 力ではね返すことはできたでしょう?」と主張する美鈴。
「暴力の前でやるしかないからやった」と返す新妻。

男女の差はあれど、両者とも被害者側であることは確かで、
だから男性を責める美鈴にとって、新妻は、それを否定してくる存在のようなもの。


逃げようと思えば、逃げることはできた。そうしようと思えば、いつでも親友に打ち明けることもできた。なのに、何故それをしなかったのか。


その答えのひとつとして「空気の圧」という言葉があったのが印象的だった。
何か、断ることのできない大きなもの。そんな空気に飲み込まれるような感覚。


それって、性暴力だけでなくて、他にも同じことが言えると思う。例えば、「いじめ」とか。


断ることの出来ない空気の圧。
これに関しては、ダ・ヴィンチの書評が良かったので、そのまま引用したい。

美鈴も新妻も、どちらも自分のことが許せない。他人につけ入る隙を与えてしまった自分の落ち度を恥じている。だから“幸せになっていい”とは思うことができずに、あがき続ける。だが二人が受けた本当の暴力は、腕力でも、社会的立場につけこんだ脅迫でもない。空気による圧だ。物理的に逃げられるかどうかなんて関係ない。一方的な強要を、受け入れざるを得ない空気が発生したとき、それはたしかに不可避の暴力となる。落ち度なんて、なかった。二人は逃げることなんてできなかったし、自分を蔑む必要だってなかったはずなのだ。
自分にも落ち度があった性被害者は、幸せになってはいけないの――? 『先生の白い噓』 | ダ・ヴィンチニュース




とりあえず、第2巻まで読んで。

http://www.nilab.info/lab/twitterpic/924139294519726080_1.jpg
第2巻の巻末に掲載されている作家の萩尾望都先生の文章もまた素晴らしいので、それを是非読んでほしいです。



年末に、変質者に遭ってしまった。。。

私の個人的な意見だけど、やっぱり男性を恨んでしまうときってあると思う。それって、私が女性側だからですが。
女性に性被害を受けたら、女性を恨んで、女性を恐れてしまうだろうなと思う。
性の問題に対面したときって、否が応でも自分の性を自認させられる。


私自身はこの漫画に出てくるようなヘビィな性暴力は、受けたことがないと思うけれど、高校時代に電車で痴漢にはよく遭っていました。
当時って、今よりも規制が緩い(?)ところがあって、今と比べて痴漢に遭う確率が格段に高かった。普段クールな私だけど、電車に乗りながら怖くて震えたり、電車を降りてから不覚にもぼろぼろ泣いたこともありました。いやはや、我ながら可愛かったですね。笑


電車の痴漢について、クラスメイトの女の子と話していたら、男の子から「それって、ただ自意識過剰なだけなんじゃないの?」とか言われて、真剣に腹が立ったりね。笑
まあ当人にしか、わからない問題なんでしょうね。その瞬間の、声も上げられなくなってしまうような恐怖とか。だって電車の中だと注目されるのも嫌だし。卑劣ですよね。



流石にこのご時勢、20代後半になってきてからは、あんまりそういう被害に遭うこともなくなったかな、と思っていたのですが、不幸にも今週月曜日、仕事帰りに道端で変質者に遭ってしまいました。
別に直接触られたり、そういうのはなかったのですが、向こうから歩いてくる男性に下半身を出しながら近づいてこられました。このひとに近づくくらいなら車に轢かれてもいいと思ってしまうくらいの嫌悪感で、全力で避けました。通り過ぎて距離が出来てもまだ話しかけてきていたので当然無視しましたが、気持ち悪かったです。


駅までたった数メートルの距離があんなに遠いと思ったのは初めてだったし、悪いけどその後の数時間、「男なんてこの世から滅びてしまえばいいのに」と呪ってしまいました。勿論、本心から思っているわけではないです。好きだったり、大事な男性の知り合いは世の中に沢山います。なのに、私から不快感や憎悪の感情を引き出したあの男性を、正直私は恐いと思ってしまったし、そんな感情を抱いてしまった自分自身も、また恐かったです。



この漫画に出てくるあるキャラクターのように、恐怖からうっかり友人に連絡しようとしてしまった自分を必死で自制して、何事もなかったように過ごしてはいますが、実はあの後からとても怖くて、今まで何気なく通っていた道が、私の中でまったく別物に変わってしまいました。(恐かった体験をここで告白している時点で弱いのですが)

一人が好きで、一人で行動するのが好きな私ですが、一人で駅まで数分歩くだけのことが恐ろしくなってしまった。


別に、直接何かされたわけではないのだからこんなに怖がる必要はないのですが、ちょっとトラウマになってしまった。駅まで一人で歩くという、たったそれだけのことが、あぁ嫌だなぁと思う。誰か一緒にいてくれたらいいのにと思う。
途中にある警察署に寄って、駅まで一緒に歩いてくれませんかと言いたいのをぐっと堪えて、もう何も起きなければいいと念じながら、早足で、なるべく人の多い道を選んで歩いて、誰かとすれ違いそうになる度に身構えてしまう自分がすこし情けない。


愛が有ろうが、無かろうが

結局、「性行為」っていうのは「生殖行為」で、愛が有ろうが無かろうが、たとえそれが暴力であったとしても、新しい命が宿る可能性を孕んでいるんだな、と。
新しい命を授かると、なんだかあたかも神聖なもののような。単なる暴力でしかなかったものが、別物になるような。不思議な感覚。

これは単なる妄想だけど、例えば女性がレイプされたとして、それで男性を怯えたり憎むようになったとして、それなのに子供を授かってしまって、それが男の子で、恨んで憎んでいる対象の筈の存在が自分の体から出てくる…とか、そういうこともあるのかなと一人で勝手に考えて、ちょっとぞっとしました。
でも、きっとそういうことって実際にあるよね。




重い内容だけど、だからこそ読んでほしい。

もう年末ですが、2017年に読んでよかった漫画のかなり上位に来る作品に出会えました。


この漫画を読んで男女の差だったり、ジェンダー問題だったり、セクシュアルハラスメントだったり、一人で悶々と考えてしまいました。自分自身の無意識な感じ方なんかを認知する良い機会になりました。


自分自身は今のところ独身で、結婚願望もさして無いので、生涯独身でいることも覚悟の上なのですが、今週変質者に遭遇してしまったことが私の考え方をちょっと揺らがせたかな。
つまり、私は一人で生きていかれるように強くならなくては、と高校時代から覚悟してずっとそうして気張ってきたところがあるのに、案外そんな覚悟なんて脆く崩されてしまうんだな、と。男性に傷つけられても、男性を敵視しても、別の男性に無意識に助けを求めたくなったのが変な感じで、自己嫌悪でした。あれかな、一人暮らしの女性が、一人暮らししていると悟られないように、いもしない男性の下着を洗濯して干しておくみたいな、そんな些細な、脆い支えみたいなものを私も求めてしまったのかもしれないな。精神的男性用下着。意味不明ですが。別に男性を侮辱してるとか、そういうことじゃないんですよ。


年末にショックがどかんと来てしまいましたが、変質者とか、他人の尊厳なんて考えていないひとって実際にいますので、みなさま本当に気をつけてください。男性女性関係なくね。
無事に年を越せること、来年が良い年でありますよう、心から念じております。



なんだか途中から全然書評でなくなってしまって申し訳ないですけど(笑)、一気に読まされて、絵も素晴らしいおすすめの漫画でした。


本当はもっと色々と思うところがあって、書きたいこともあったのですが、ネタばれになりそうだったので、性暴力にフォーカスして感想をまとめてみました。


語弊があるかもしれませんが、漫画としても面白かったです。すっかり鳥飼茜先生のファンになってしまいました。



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*1:第1位は高野文子さんの『ドミトリーともきんす